世界遺産 理念と現実のはざまで

2017年10月04日 16時38分 NewsWebEasy
仮名がなレベル

たとえば日本の歴史的遺構や自然が世界遺産に選ばれたら、皆さん、どのような思いを抱きますか?多くの人が誇らしい気持ちになったり、もしかしたら地域おこしにつながるのではと期待に胸を膨らませたりするのではないでしょうか。しかし、今、そんな世界遺産のイメージを覆すような、ある異変が起きているというのです。(ネットワーク報道部記者 郡義之、ウィーン支局記者 小原健右)

こんなはずじゃなかった!?

未来に残すべき文化や自然を守るためユネスコが制定した世界遺産。これまでに世界で合わせて1000件余り、日本国内では21件が登録されています。どの地元でも観光客が増えるなど経済的な恩恵も受けているだろうと思いきや…。ところによっては、世界遺産を維持・管理する負担感ばかりが増しているケースもあるんです。

その一つが、3年前(平成26年)に登録が決まった群馬県の富岡製糸場です。登録が決まった当時は、年間130万人以上が訪れ、一大フィーバーを巻き起こしましたが、今では来場者がピーク時の6割程度にまで落ち込んでいます。敷地内には修復作業が終わっていない建物が多く、見学できる施設が限られていることが低迷の原因と見られています。

地元の富岡市では、製糸場の修復や運営のため年に10億円ほどを負担していますが、来場者数を維持できなければさらに持ち出しが増える危機に直面しています。また、地域の商店街も世界遺産フィーバーに翻弄されました。観光客の増加を当て込んで出店が相次いだものの、売り上げが減った今では店をたたむところが出ているのです。

市長のホテル構想 しかし“大きな壁”が

そんな状況を打開するため、富岡市の岩井賢太郎市長は世界遺産に含まれている赤れんが造りの倉庫をホテルに改装し、観光客を呼び込もうという大胆なプランを思い描いています。しかし、市長の構想には、ユネスコが定めた「指針」が大きな壁として立ちはだかっています。

指針では、建物の修復や変更の際に文化財としての価値を損ねないよう最大限の配慮を求めています。このため、ホテル計画は国などとの協議が難航することが予想され、検討を始めるめどすら立っていません。

岩井市長は「製糸場を観光地として活用していかないと来場者数を維持できない。とても歯がゆい」と話しています。

「危機遺産」になったウィーン

街ごと世界遺産に登録されることが多いヨーロッパでは、「保護」と「活用」のバランスをどう取るかがより深刻な問題となっています。それを象徴するような事態となっているのが、オーストリアの首都ウィーンです。

市の中心部は「歴史地区」と呼ばれ、2001年に世界遺産に登録されましたが、ここに高さ73メートルの高層マンションなどを整備する計画が持ち上がったのです。ユネスコの世界遺産委員会は、このままでは美しい景観が失われてしまうとして「危機遺産」に指定し、歴史地区の普遍的な価値を守るべく適切な対策を取るよう市に強く警告しました。

これに対して、市の担当者は「ウィーンは博物館ではなく、人々が働き、暮らす、生きた街だ。だからこそ街の開発と保存のバランスを考えなければならない」と述べたうえで、「最悪の場合、世界遺産の登録を抹消されてもしかたがない」と話しました。

少子高齢化によって社会保障費が増加し新たな税源の確保が急がれるウィーン市には、新たな都市開発で大企業や富裕層をひきつけたいという狙いがあります。そうした狙いが妨げられることで、市にとっては世界遺産に登録されていることのメリットよりも、デメリットを強く感じる状況となっているのです。

登録抹消された街では…

ドイツ東部の都市ドレスデンでは、実際に世界遺産の登録が抹消されました。

市の中心を流れるエルベ川と旧市街地が調和した美しい風景が評価され、2004年に世界遺産に登録されました。しかし、その後、交通渋滞緩和のため市が新たな橋の建設を決めると「景観が損なわれる」として登録を抹消されたのです。

それでも観光客は減るどころか、むしろ登録抹消後のほうが増え、去年、訪れた人はおよそ200万人に上りました。街なかで話を聞いてみると、「世界遺産はただの名前でしかないのではないか」と登録抹消について全く意に介さない人や、「大切なのはここに住む人の暮らしです。古さと新しさが共存するこの美しい街が大好きです」と話す人もいました。

理念と現実のギャップ

世界遺産の目的は、人類共通の遺産を国際社会全体で保護すること。しかし、制度の開始から40年余りがたった今、登録を申請する側は知名度の向上や観光客の増加など実利的なメリットを求めがちです。遺産の保護という理想を追い求めながら、人々の暮らしや遺産の利活用といった現実とどう折り合いをつけるのか。世界遺産の意義が問い直されています。

※プログラムでふりがなをけっているので、 間違まちがっている場合ばあ いもあります。