日本の科学者でつくる国の特別機関「日本学術会議」は、高校で学習する「生物」について、学ぶ用語が多く、いわゆる「暗記科目」になっているとして、学ぶべき重要な用語を4分の1ほどに絞り込むよう求める指針を初めてまとめました。専門家は「暗記ではなく、考える力を養うような科目にしてもらいたい」としています。



高校の3年間で学習する「生物」は、生命科学などの進歩に伴って学習する重要な用語が延べ2000を超え、ほかの理科の科目と比べて多く、テストでは用語の知識を問ういわゆる「暗記科目」になっていると指摘されています。

日本の科学者で作る国の特別機関の「日本学術会議」は、高校の「生物」で学ぶべき重要な用語として、現在の4分の1ほどにあたる512に絞り込むよう求める初めての指針をまとめました。

例えば、動物の分類では、10余りの用語でグループ分けをしていますが、哺乳類などが含まれる「脊椎動物」や昆虫などの「節足動物」は引き続き残す一方、ミミズなどの「環形動物」やヒトデなどの「棘皮動物」は残さず、重要な用語は6つに減らす提案をしています。

また、科学者の名前や遺伝子の名称などを用語から大幅に減らし、テストでは、用語の知識を問う穴埋め問題で評価することを避けることなども提案しています。

学術会議では近くこの指針を公表して、国や教科書の出版社に指針の内容を反映するよう求めていくことにしています。

指針をまとめた東京大学の中野明彦教授は「指針に載っていない言葉は教えてはいけないという意味ではないが、生物学は地球が直面するさまざまな問題と密接に関係していて、暗記ではなく、考える力を養うような科目にしてもらいたい」と話しています。


用語を減らし考える力を

指針では、高校の3年間で学ぶ「生物」の用語が多くなった背景として、生命科学の急速な進歩などがあるとしています。

指針をまとめた東京大学の中野明彦教授によりますと、高校の「生物」で学習する重要な用語はのべ2000を超え、理科のほかの科目に比べて特に多くなっているということです。

そのため「生物」のテストでは、用語の知識を問う質問が多くなるなど、いわゆる「暗記科目」になっていると指摘されています。

また原理を学んで応用することで問題を解く物理や化学よりもテストの点数が取りにくいとして生物は大学の受験科目に選ばれず、授業で選択しないケースが増えているとされています。

ことし行われた大学入試センター試験では、受験科目として化学を選んだ人は延べ20万9540人、物理は延べ15万6842人だったのに対し、生物は半分以下の延べ7万4714人でした。

そこで今回の指針では、学ぶべき重要な用語を4分の1ほどの512に絞り込んで、「暗記科目」から抜け出すことを目指しています。

動物の分類では、10余りの用語でグループ分けをしていますが、哺乳類などが含まれる「脊椎動物」や昆虫などの「節足動物」は引き続き残す一方、ミミズなどの「環形動物」やヒトデなどの「棘皮(きょくひ)動物」などは残さず、重要な用語は6つに減らす提案をしています。

中野教授は、分類のための用語を覚えるのではなく、なぜ生物は海の中からより重力の負荷がかかる陸上に上がり、どのように体の仕組みを変化させながらさまざまなグループに分かれたのか、仮説を立てて考え、課題を解き明かしていくような学習のしかたが重要だとしています。

また1つの受精卵から動物が誕生するまでの過程を学ぶ「発生」では、教科書によっては、多いものでは80の用語で説明していますが、指針では半分以下となる34にまで絞っています。

その代わりとして、生物が1つの細胞からどのように誕生するのか、その仕組みを理解することで生命の奥深さを知り、関心を持ってほしいということです。

中野教授によりますと「『生物』は正解が必ずしも1つになるものばかりではなく、さまざまな視点で物事を捉えて考える力を養うことは、生物学ではもちろんだが、社会に出て問題解決を図るうえでも必要な力になる」としています。


独自の取り組みをする高校は

東京・杉並区にある都立西高校では、1年生のときに週に3時間生物基礎を履修し、3年生のときに希望者が生物の授業を選択しますが、いわゆる「暗記科目」にせず、「考える力」を身に付けもらおうと取り組んでいます。

この日行われた1年生の生物基礎の授業では、血液から老廃物を取り除く腎臓について学びました。授業では、教科書に書いてある用語をただ覚えさせるのではなく、スライドや図を使って仕組みや現象を理解できるよう伝えます。用語が多くても、暗記だけにならずに理解を促すことが狙いです。

また、生徒どうしや先生と生徒が議論する時間を多く取り、生徒みずから考え、その考えを説明する力を身に付けさせようとしています。

この日は、健康診断で行う尿検査の項目を基に腎臓の仕組みや働きが悪くなるとどのような病気につながるのか意見を交わしていました。

この学校では、通常求められている授業時間よりも週に1時間多く授業を行いこうした取り組みを進めています。担当する教員は、こうした授業によって、休み時間に生徒が質問にくることが増えるなど「生物」への関心が高まっていると感じています。

生徒の1人は、「中学生のときは、生物は暗記科目という意識が強かったですが、高校の授業を受けていると生命現象の背景などを深く学んで、自分たちで考えながら授業が進むので、とても楽しいです」と話していました。

この授業を担当している教員の渡邊正治さんは、「授業では、考える基になる知識は覚える必要があるが、授業の中では考えることに力を入れていて、効果は出ていると思う。しかし大学入試でも「生物」は、用語の暗記が占める割合が大きく、用語を減らして考えることに費やす時間が増えるような科目にしてほしい」と話していました。

イージー・ニュース

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