書店員は名探偵!

「読みたい本のタイトルが思い出せない」、「あらすじの一部はわかるんだけど・・」そんな経験、ありませんか。漠然とした問い合わせからも、本に関する深い知識と熱意を持って目的の本を探し出す書店員や図書館の司書たち。インターネット上でその活躍ぶりが話題となっています。(ネットワーク報道部記者 飯田暁子 宮脇麻樹)



本日のお問い合わせ

「書店員本日のお問い合わせ」。話題となっているツイッターのハッシュタグです。こんな問い合わせから本を探し出したというユニークなケースが並んでいます。

その一例、「“さよなら、二郎”っていう本ありますか?」

この方が探していたのは子どもの寝かしつけの時に人気の絵本、
『おやすみ、ロジャー』(カール=ヨハン・エリーン/著・三橋美穂/監訳)

一致している言葉はありませんが、タイトルの雰囲気はほんの少し似ている……、いや似ていませんね。書店員の方、よく見つけられたと思います。

もっとも、すぐ見当がつく問い合わせも多いようです。
「心臓だか肝臓だかを食べる話」「100歳まで生きてみたけどいろいろ腹が立つ、みたいな本」など。
これならあのベストセラーだと見当がつきます。

難しいだろうなと思うのは「きのうテレビで紹介されていたんだけどタイトルも作者も内容も覚えていない」といった漠然としたもの。
例えば「このあいだ新聞に載ってたひらがな3文字の本」
機転を利かせて探し出したのは『ツナグ』(辻村深月/著)
“ひらがなではなく、カタカナでは?”という発想が本との出会いにつながりました。


街の書店で聞くと…

東京・渋谷区の駅前に店を出して40年という幸福書房の岩楯幸雄さんに聞くと、あいまいな問い合わせは実際、結構多いようです。
「多いのは“テレビで見た”(紹介された)というもの」
いつ放送されたどの番組かが分かれば、代わりにテレビ局に電話をして調べることもあるそうです。

岩楯さんは「問い合わせが多いのは年配の方。お探しの本が見つかったときにはうれしく思います。タイトルや著者名がうろ覚えだと調べることも難しいのですが、どこで紹介されたのかや出版社名がわかると探しやすくなります」と話していました。


覚え違い担当がいる図書館

調べてみると、覚え違いやうろ覚えの問い合わせにどんなものがあるのか、まとめている図書館があることがわかりました。

都道府県が運営する図書館の中で、人口1人当たりの本の貸し出し数が日本一の福井県立図書館です。(平成27年度調査)

福井県立図書館のウェブサイトにあるのは「覚え違いタイトル集」。実際にあった覚え違いの本のタイトルや著者名が実に660載っています。


例えば、著者もタイトルも大きく違っていたのは、「村上春樹のとんでもなくクリスタルと言う本が読みたい」というリクエスト。その人が読みたかった本は実は村上龍の『限りなく透明に近いブルー』。似たタイトルで、『なんとなく、クリスタル』(田中康夫/著)があり、断片的な記憶がごちゃまぜになってしまったのでしょうか。

「咲かれたところで開きなさい」は『置かれた場所で咲きなさい』(渡辺和子/著)の覚え違いでした。これはわかりそうですね。

著者の名前を漠然と覚えていた人からの問い合わせではこんなものも。「“ラムネかサイダー”みたいな名前の新人作家、ミステリーで何かの賞を受賞した人」探していた作家は『清涼院流水』(せいりょういんりゅうすい)。ラムネかサイダー、、、、言われてみればという感じです。

物語のあらすじから本を探してほしいという人もいます。「人間の床屋さんのところに次々と動物が客として来てしまう、内容の絵本」これは絵本の『バルバルさん』(乾栄里子/文西村敏雄/絵)「犬がスープを飲んで人間の言葉をしゃべれるようになった」は『いぬのマーサとスープのひみつ』(スーザン・メドー/作・絵、ひがしはるみ/訳)

「覚え違いタイトル集」の一覧を見てみると、記憶違いから、なぞなぞを出されたような覚え違いまでさまざま。リストを読んでいるだけでクスッと笑ってしまいます。でも、なんでこんなことをはじめたのでしょうか?図書館に電話をかけ取材の趣旨を伝えると、電話からは「はい、”覚え違い担当”の吉川です」という声。覚え違いの担当者がいました。


名探偵に聞いてください

2代目覚え違い担当の吉川千鶴さんは、4年前に、前任者から引き継いで担当になったそうです。図書館では以前、カウンターで聞かれた覚え違いの事例をファイルを作って職員の間だけで共有していました。

しかし目当ての本が見つからず、しょんぼりしている人のヒントになればと、10年前からリストを公開し、更新を続けているそうです。

実際にカウンターで聞かれた覚え違いのほか、情報提供も呼びかけていて、ほかの図書館の職員や、書店員からも情報が寄せられています。

吉川さんによると、覚え違いをしていても、タイトルの一部や「最近出た」などの出版の時期がわかれば探せることが多いとのこと。

逆に、難易度が高いのは「大人が子どもの頃に読んだロングセラーではない本で、タイトルがわからず、あらすじも少ししか覚えていないケース」だそうです。探すのが大変な時もありますが、吉川さんは「探している本が見つからないのに、遠慮してカウンターで相談しない人も多いと思います。覚え違いタイトル集を見て、図書館を身近に感じてもらい、気軽に本について尋ねてもらうきっかけになればと思います」と話しています。

ツイッターでも、「『この情報だけじゃ分からないよな』と懸念して書店員に聞かない状況になるほうが困ります。書店員は百戦錬磨の名探偵です。気軽に聞いてみてください」という、書店員と思われる人の投稿もありました。正確にタイトルや著者を覚えていないけど、読んでみたいあの本。書店や図書館で「名探偵」に尋ねてみると、その本に出会えるかもしれません。