陸上の男子100メートルで、東洋大学4年生で21歳の桐生祥秀選手が、福井市で行われた大学生の大会に出場し、日本選手初の9秒台となる9秒98の日本新記録をマークしました。これまでの記録は、1998年に伊東浩司さんが出した10秒00で、桐生選手は0秒02更新しました。


東洋大学4年生で21歳の桐生選手は、9日、福井市で行われた日本学生対校選手権の男子100メートルの決勝に出場しました。

桐生選手は、好スタートを切ったあと、中盤から終盤にかけても伸びのある走りを見せて、1.8メートルの追い風が吹く条件の中、日本選手で初めての9秒台となる9秒98の日本新記録をマークしました。

桐生選手は、力強く大きなストライドとスタートから中盤にかけての爆発的な加速力が持ち味で、高校3年生の4月に広島市で開かれた大会で日本記録に100分の1秒と迫る歴代2位の10秒01をマークして、一躍脚光を浴び、去年6月の大会で、3年ぶりに自己ベストに並ぶ10秒01を再びマークするなど、日本選手初の9秒台への期待が集まっていました。

これまでの記録は、オリンピックに1996年のアトランタ大会と2000年のシドニー大会に2回出場している伊東浩司さんが1998年のアジア大会でマークした10秒00で、桐生選手は0秒02更新しました。

去年のリオデジャネイロオリンピックの陸上男子100メートルの決勝では、金メダルを獲得したジャマイカのウサイン・ボルト選手の9秒81をはじめ、レースに出場した8人のうち、上位6人が9秒台をマークし、残る2人は10秒台でした。

桐生選手が9日にマークした日本新記録の9秒98は、オリンピックの決勝のレース結果に当てはめると6位の選手の9秒96に次いで7位に入ることになります。


「やっと更新できた」

桐生選手は「やっと4年間くすぶっていた自己ベストが更新できた。監督、コーチ、トレーナーには、感謝の気持ちでいっぱいです。やっと世界のスタートラインに立てたのかなと思います。もちろん9秒台を出してうれしかったですけど、そこからまた再度スタートを切っていきたいと思います」と話しました。


土江コーチ「桐生らしい走りができた」

東洋大学で桐生選手を指導してきた土江寛裕コーチは「世界選手権のあと、モチベーションを保つのは難しかったが、ここに向けて準備をしてきた。体は整ってあとは心だけだったが、最後の最後に心の準備ができたのだろう。桐生らしい走りができた」とレースを振り返りました。

そのうえで、「9秒台を早く出したいという思いがあって、それをいちばん背負ってきた選手が9秒台を出せてよかった。けがもあって正直、順風満帆ではなかったが、9秒台を出してくれて、今は感謝の気持ちだけだ」と桐生選手の快挙に涙をこらえきれずに話していました。


伊東浩司強化委員長「彼の意地を見た」

日本陸上競技連盟の伊東浩司強化委員長は「9秒台が出た瞬間は鳥肌が立ったし、純粋にこの記録のすばらしさを感じた。桐生選手は、ことしは思うように結果が出ず、世界選手権は個人種目で出られなかったなか、きょうは彼の意地を見た。この調子で、9秒台が1人でも多くなって、2020年の東京オリンピックに向かえればいいと思う」と話していました。

これまで自身が持っていた10秒00の日本記録が19年ぶりに更新されたことについては、「多くの選手が9秒台に挑戦してきたことも踏まえ、日本のスプリントの歴史の重みを改めて感じた。桐生選手には『自分の記録より前にないものを目指すとき、真のアスリートとしての価値が問われる』と伝えたい」と話していました。


塚原直貴さん「新しいステージに入った」

2008年の北京オリンピックで男子100メートルに出場した塚原直貴さんは「身近で桐生選手を見て、そういう苦悩だったり、チャレンジっていうものを見てきたなかでの結果だったので、本当によかった。日本がまた新しいステージにいったなという気がしている」と話しました。

そのうえで、「ここが彼の新たなスタートラインになると思うし、ほかの選手も続いほしい。頂点が伸びたという意味では、より世界で戦えるし、世界との差が縮まったということだと思う。これで世界を相手に『よーいどん』ができるんじゃないですか」と話し、世界と互角に戦える可能性が広がったと指摘しました。


桐生祥秀選手とは

桐生祥秀選手は滋賀県出身の21歳。東洋大学の4年生で、力強く大きなストライドとスタートから中盤にかけての爆発的な加速力が持ち味です。

高校2年生だった5年前、10月の国体で、18歳未満のユース世界最高記録となる10秒21を出し、高校3年生の4月には、広島市で開かれた大会で日本記録に100分の1秒と迫る歴代2位の10秒01をマークして、一躍、脚光を浴びました。

大学に入学後、おととし3月にアメリカで開かれた大会で、追い風参考の記録ながら9秒87を出して、日本選手初の9秒台が一気に現実味を帯びました。その後、右太ももの肉離れのケガを乗り越え、去年6月11日の大会で、3年ぶりに自己ベストに並ぶ10秒01を再びマークしました。

去年8月には、リオデジャネイロオリンピック代表となり、男子100メートルは予選で敗退しましたが、400メートルリレーで、第3走者として抜群の走りを見せて、銀メダルに貢献しました。

今シーズンは6月の日本選手権で4位となり、世界選手権の個人種目の代表を逃しましたが、リレーのメンバーとして、銅メダル獲得に貢献しました。


9秒台達成の背景は

桐生祥秀選手が9秒台を出した要因には、オリンピック後に体をつくり直し、得意の中盤での爆発力を磨いたことがあげられます。

桐生選手はおととし3月、アメリカの大会で、追い風参考ながら9秒87を出しましたが、その後、右太ももの肉離れもあり、脂肪と体重を落としてケガのリスクを減らしました。そして、去年8月のオリンピック後に早めにシーズンを終えて体を休めて、室伏広治さんに指導を仰ぎ、ウエイトトレーニングや体幹トレーニングを見直して体力の強化に努めました。

じっくりと体をつくり直したことで、脂肪の量はそのままで体重が2キロ増えて、得意の中盤での爆発力に磨きがかかり、中盤以降の走りにスピードが増しました。さらに苦手だったスタートの課題克服にも積極的に取り組んでいました。


日本選手100mの軌跡

日本選手で初めて9秒台に迫ったのは、19年前の1998年、当時28歳の伊東浩司さんでした。アジア大会で10秒00をマークし、日本選手初の9秒台へ期待が高まりました。

このあと、3年後には、朝原宣治さんが10秒02を出し、2003年には末續慎吾選手が10秒03をマークしました。そして、10年後の2013年、当時高校3年生だった桐生祥秀選手が10秒01を出して、一躍、脚光を浴びました。

オリンピックイヤーの去年5月、ケンブリッジ飛鳥選手が10秒10、6月に桐生祥秀選手が10秒01を再びマークしたほか、9月に山縣亮太選手が10秒03を出しました。

今シーズンは、大学生の多田修平選手が6月の学生の大会で10秒08を出したほか、サニブラウン アブデル・ハキーム選手が6月の日本選手権で10秒05を出して優勝し、今月の世界選手権でも再び10秒05をマークするなど、いつ、誰が9秒台を達成するのか、一段と注目が高まっていました。


世界で戦える可能性広がる

桐生選手が9秒台をマークし、日本選手が長年、越えられなかった大きな壁を打ち破った結果となりました。この種目の世界記録は、ジャマイカのウサイン・ボルト選手が2009年の世界選手権でマークした9秒58です。

国際陸上競技連盟によりますと、去年1年間では、25人の選手が合わせて60回、100メートルを9秒台で走っています。また、去年のリオデジャネイロオリンピックの男子100メートルで決勝に進んだ8人のうち、6人が9秒台をマークしました。

アジアでは、ナイジェリア出身でカタール国籍を取得したフェミスワン・オグノデ選手が9秒91のアジア記録を持っているほか、中国の蘇炳添選手が、おととし、9秒99をマークしています。

日本選手が過去にオリンピックと世界選手権の男子100メートルで決勝に進出したのは、1932年のロサンゼルスオリンピックの吉岡隆徳さんのみです。しかし、今回、桐生選手が日本選手初の9秒台となる9秒98をマークしたことで、日本選手が世界のトップ選手とオリンピックなどの決勝で戦える可能性が広がったと言えます。