温暖化対策のパリ協定 米にとどまること求める声相次ぐ

2017年05月09日 04時40分 NewsWebEasy
仮名がなレベル

去年11月に発効した地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」の実施に向けたルール作りを話し合う作業部会が8日、ドイツで始まり、出席者からは世界第2位の温室効果ガスの排出国であるアメリカがパリ協定にとどまることを求める声が相次ぎました。

パリ協定は、発展途上国を含むすべての国が、それぞれ目標を立てて温室効果ガスの削減に取り組む国際的な枠組みで、去年11月に発効しました。

しかし、世界第2位の温室効果ガスの排出国であるアメリカのトランプ大統領は、オバマ前政権が進めてきた地球温暖化対策を全面的に見直すための大統領令に署名するなど対策に後ろ向きで、パリ協定から脱退するかどうか近く結論を出す考えを示しています。

こうした中、ドイツのボンで8日、190余りの国と地域が参加して、各国の削減目標を評価・検証するための具体的なルール作りを話し合う事務レベルの作業部会が始まりました。アメリカ政府も交渉団を送っていますが、どこまで交渉に加わるか、定かではありません。

各国の出席者からはトランプ政権の決断に強い関心が寄せられ、このうち、ことしのCOP23の議長国を務める南太平洋のフィジーのカーン大使は「アメリカの決定について話をするのはまだ早いが、地球温暖化対策という非常に重要な課題にアメリカとともに取り組むことを楽しみにしている」と述べ、アメリカがパリ協定にとどまる重要性を強調しました。

作業部会は18日まで開かれ、どこまで実質的な交渉を進められるのか、注目されます。

協定にどう実効性もたせるかが課題

パリ協定は、2020年以降の地球温暖化対策についての新しい国際的な枠組みで、おととし、フランスで開かれた国連の会議、「COP21」で採択されました。

その後、去年9月、世界1位と2位の排出国の中国とアメリカがそろって締結したことで各国が次々と締結し、パリ協定は採択から1年もたたない去年11月、発効しました。今月5日の時点で締結した国は、日本を含む143か国にのぼり、世界全体の排出量のおよそ83%を占めています。

パリ協定は、世界全体の温室効果ガスの排出量をできるだけ早く減少に転じさせ、2050年以降には実質的にゼロにすることなどを目標に掲げています。先進国だけに温室効果ガスの排出削減を義務づけた京都議定書と異なり、発展途上国を含むすべての国が5年ごとに温室効果ガスの削減目標を提出し、対策を進めることが義務づけられていて、日本を含む多くの国がすでに2020年以降の削減目標を国連に提出しています。

ただ、現在の削減目標では、すべての国が目標を達成したとしても、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて2度未満に抑えるという協定の目標は達成できない見込みです。このため、各国が5年ごとに提出する温室効果ガスの削減目標をどう引き上げ、協定に実効性を持たせるかが、課題となっています。

去年11月にモロッコで開かれた「COP22」では、各国の削減目標を、互いにどう評価し、検証するかなどの具体的なルールを2018年までに作ることが決められました。今回、ドイツのボンで開かれる作業部会は、期限内のルールの策定に向けた重要なはじめの一歩となる会議で、実質的な交渉を始めることができるかが注目されます。

日本はどう交渉に臨む

去年11月、北アフリカのモロッコで行われた地球温暖化対策の国連の会議、COP22では、パリ協定の詳しいルールを来年の秋までに作ることで各国が合意しました。

日本政府の交渉団の関係者によりますと、今回の作業部会では、ルールの素案を提示するなど詳しいルール作りに向けた具体的な動きを作り出せるかや、来年開かれる各国の温室効果ガスの削減目標について話し合う会合で、各国が目標をさらに引き上げるための仕組みをどう作るかなどが焦点になるということです。

パリ協定のルール作りをめぐっては、各国の削減目標の達成度合いを評価する仕組みの導入について、先進国と発展途上国の間で意見が対立していて、日本などの先進国がすべての国を同じ基準で評価するべきだと主張しているのに対し、途上国側は、これまで多くの温室効果ガスを排出してきた先進国側に、温暖化の進行についてより重い責任があることや、技術力の違いなどから、同じ基準で評価するのはのぞましくないと主張しています。こうした各国の主張が折り合うのか現状では見通せない状態で、日本政府の交渉団には、今回の作業部会の議論を取りまとめるために役割を果たすことが求められています。

一方、今回の作業部会が始まる前、アメリカの代表は、温室効果ガスの削減目標の引き上げに対し消極的な発言をするなど、オバマ政権時代、温暖化対策の国際交渉をリードしてきたアメリカの姿勢が、トランプ政権になって確実に変化しているという見方もあります。これについて日本政府の交渉団の関係者は、「日本の温暖化対策に対する姿勢は変わらないので、これまでどおりの主張を続けていきたい」と話していて、アメリカの出方を慎重に見極めながら交渉に臨む方針です。

アメリカの動向は

アメリカのトランプ大統領がパリ協定から脱退するかどうかについて、近く、結論を出す考えを示していますが、パリ協定には脱退に関する規定があり、すぐには脱退はできません。

規定ではパリ協定の締約国は、「協定が効力を生じた日から3年を経過した後いつでも、国連に対して書面で脱退の通告を行うことにより、脱退できる」と定められています。つまり、協定が発効した2016年11月から3年間は、脱退を通告できないことになっています。さらに、脱退は、国連が脱退の通告を受けた日から「1年を経過した日、又はそれよりも遅い日」と定められ、実際に脱退できるのは通告から最短でも1年後となります。つまり、仮にトランプ大統領が脱退を表明したとしても、パリ協定の規定で、アメリカが脱退の通告をできるのは2019年11月からで、その時期に通告をしたとしても、実際に脱退できるのは早くとも2020年11月となり、トランプ大統領は、みずからの任期終盤にならなければ脱退できないことになります。

ただ、パリ協定を採択した国連の会議を開いている「気候変動枠組条約」そのものから脱退すれば、パリ協定からも脱退したものとみなすという規定があり、この条約は、通告から最短で1年で脱退が可能です。しかし、1992年、「気候変動枠組条約」に署名したのは、トランプ大統領と同じ共和党のブッシュ元大統領で、アメリカ議会の上院も承認したことなどから、専門家からは、この条約からの脱退は、現実的な選択肢ではないという指摘もあります。

トランプ政権の環境政策は

アメリカのトランプ大統領は地球温暖化対策の新しい国際的な枠組み「パリ協定」から脱退するかどうかについて近く結論を出す考えを示していて、その判断が注目されています。

トランプ大統領は去年の大統領選挙中、地球温暖化について「でっち上げだ」などと述べ、否定的な立場をとり、一時、パリ協定から脱退すると主張していました。そして、大統領就任後すぐにオバマ前政権では環境保護の観点などから認められていなかった原油パイプラインの建設計画を推進するよう指示するなど環境問題よりも雇用の創出を優先する姿勢を鮮明にしました。さらに、地球温暖化対策を推進してきた環境保護局の長官に、オバマ前政権の温暖化対策を強く批判してきたスコット・プルイット氏を起用した上、ことし10月から始まる2018年度予算の政府案では、環境保護局の予算をおよそ30%削減する方針を示しました。また、3月28日にはオバマ前政権が進めてきた地球温暖化対策を全面的に見直すための大統領令に署名しました。この大統領令はアメリカ国内のエネルギー生産を妨げる規制や政策を見直すよう関係省庁に求めるもので、オバマ前大統領が温暖化対策の柱としておととし打ち出した、全米の火力発電所からの二酸化炭素の排出を規制する「クリーン・パワー・プラン」も見直しの対象に含まれています。さらに、大統領令ではオバマ前政権が禁止した国有地での石炭の採掘について規制を廃止するとしています。

こうしたトランプ政権発足後の対応から、世界第2位の温室効果ガスの排出国であるアメリカの温暖化対策が大きく後退するのではないかと懸念されています。トランプ大統領は就任100日となる先月29日に東部ペンシルベニア州で演説し、パリ協定について「中国やロシア、それにインドが何も貢献しないのに、アメリカは何十億ドルも払う一方的な協定だ。合意を完全に履行すれば最終的にアメリカのGDP=国内総生産が縮小する可能性がある」と述べ、負担が重いと非難しました。そのうえで「今後2週間で大きな決定をする」と述べ、パリ協定から脱退するかどうかについて近く結論を出す考えを示し、トランプ大統領の判断が注目されています。

パリ協定は大きな困難に直面

アメリカのトランプ大統領は、パリ協定をめぐってどのような判断を出すのか。地球温暖化対策の国際交渉が専門で名古屋大学大学院の高村ゆかり教授はパリ協定からの脱退という選択肢を選ぶ可能性は低いのではないかとしています。これは、例えば、パリ協定をめぐる交渉の結果、石油や石炭の輸出入に関して厳しい規制が設けられると、たとえ、アメリカが協定に加わっていなくても、途上国などの協定の締約国はアメリカから石油や石炭を輸入できなくなります。このため、海外に輸出したい国内の石油や石炭業界からはトランプ政権に対して、アメリカが不在のまま、自国に不利なルール作りが進められるのを避けるためにも交渉の場に残ることを求める声があがっているのです。

では、パリ協定から脱退せずに枠組みに残った場合、どうなるのか。高村教授は政権内にパリ協定に対して否定的な意見があるため、パリ協定の効力を「弱める」何らかの対応を取る可能性があると指摘しています。具体的には、オバマ前政権が打ち出した、2025年に温室効果ガスの排出量を2005年と比べて26%から28%削減するという目標を引き下げる可能性や、途上国への支援を含む、国連の温暖化対策プログラムへの数十億ドルにのぼる資金拠出をやめる可能性があるとしています。この場合、パリ協定のルールづくりの交渉が厳しさを増すおそれがあると指摘しています。アメリカの対応に対して発展途上国が激しく反発し、パリ協定の採択に至る交渉で先進国と途上国の間で、最も激しい争点となってきた、途上国に対する資金支援の問題が再燃する懸念があるからだといいます。さらに、アメリカが資金を拠出しない場合、途上国側から、先進国側に対して、さらに多くの資金を拠出すべきだと主張する可能性があり、日本にもその影響が及ぶおそれもあるといいます。高村教授は、トランプ大統領のこれまでの言動から、温暖化対策に対するアメリカの姿勢が後退する可能性が高く、厳しい交渉を経て採択されたパリ協定は、大きな困難に直面することになると指摘しています。

日本の交渉団の代表を務める外務省の森美樹夫審議官は、「アメリカがいないパリ協定は世界的に難しいことになる。日本としては、パリ協定の枠組みの中でアメリカとの連携を深めていきたい」と述べ、アメリカの決定を日本政府としても注視している姿勢を示しました。

また、ドイツの交渉団のニコル・ウィルケ代表は、「世界最大の経済大国であるアメリカがパリ協定に残れば、世界に重要なメッセージとなる。アメリカにとって協定に残る経済的な理由は十分にある」と述べ、温暖化対策が経済成長を促すと指摘してアメリカがパリ協定にとどまることに期待を示しました。

※プログラムでふりがなをけっているので、 間違まちがっている場合ばあ いもあります。